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【真似て学ぶ】

古い話になります。

 

《学生時代のころ》

私は学生のころ、

レコーディングエンジニアになりたくて、

ある先生の録音現場に通っていました。

 

でもその先生は、何も教えてくれません。

何も言わずに演奏の録音をしているだけです。

 

私たち弟子は、始まる前の準備をしたり、

終わった後の機材の片付けや持ち運びをするだけでした。

 

録音本番中は何もすることが無く、ほっておかれます。

 

《弟子達が勝手にやっていたこと》

その間、私たちは何をしているかというと、

先生の後ろに座って必死に先生の音を聴き、

先生の手元を見ています。

 

先生がマイクの位置を直しに走っていくと、

みんなで走って着いて行き、

先生のやることをじっと見ていました。

 

何も言ってくれないので、懸命に意味を考え、

起こっていることの訳を考えます。

 

そんなふうにして、技術を覚えていきました。

 

《先生のご自宅》

後に先生のご自宅に一度だけ招かれたことがありました。

 

先生のご自宅のリスニングルームには、

所狭しと、様々なオーディオ機器が

綺麗に並べてありました。

 

そこで聞かせてもらった音が忘れられません。

 

「いまから1枚のレコード(今のCDのことです)を掛ける。

 2つのスピーカーで順番に聞かせるから、

 目をつぶっていなさい」

 

そう言われたので、

おとなしく目をつぶっていました。

 

さて、レコード演奏が始まって

まずビックリしたのは、

目の前に本当に演奏家がいるかのような

錯覚に陥ったのです!!

 

クラシック音楽だったのですが、

まるで目の前にピアノがあり、

目の前でヴァイオリニストが弾いているような錯覚です。

 

それほど、リアルな音だったのです。

 

5分くらい聴いていたでしょうか。

演奏が終わり、

次はもうひとつのスピーカーで聴かせてくれるのかな、

と思い、楽しみに待っていました。

 

先生は「どうだった?」と・・・・

 

実は、その5分の間に、ふたつのスピーカーを

しょっちゅう切り替えながら聴かせてくれていたのだそうです!!!

 

狐にだまされたよう・・というのは

こういうことでしょうか。

 

まったく切り替わりが判らなかったのです。

 

そのとき聴かせていただいたふたつのスピーカーは

メーカーも違い、

世間ではまったく印象の違うスピーカーとして有名な

2種類だったにもかかわらずです。

 

先生は日夜、自分の好きな音に鳴るように、

少しずつセッティングを変えているのだそうです。

 

だから、ふたつのスピーカーは、

先生の好きな音に、まったく同じように出来上がっていたのです。

 

《唯一の教え》

私はふたつのことを学びました。

 

仕事は道具の差じゃない、

自分の技術でどうにでもなる。

 

そして一番重要ななことは、自分の耳だ。

自分が本当に好きな音色を持っているかどうかだ、

と。

 

 

《伸びる人、伸びない人》

最近は私も,

若い人にレコーディングのアシスタントを頼んで,

手伝ってもらうようになりました。

 

何人もの人がアシスタントに来ては、

その先の道に進んで行きました。

 

あまり育ってくれなかった人の特徴は、

ただ黙って私のやることを見ているだけの人です。

 

私の元を育っていく人の中で、

その後もよい仕事をしている人は、

アシスタント時代に、

私のことをじっと見ています。

 

そしてその人を見ると、

たくさんの事をメモっている。

さらにいろんな質問をしてきては、

やはりメモっている。

 

先輩に対して「何も教えてくれない」、

と言って文句をいう人がいますが、

教えてもらうのを待っている人は、

自分で育っていく力がつきません。

 

自分から必死になって真似ていこうという気持ちのない人は、

結局育っていくことはないのだと思っています。

 

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